岩間郁夫さんの「アメリカ暮らし(70)警察官」(99・10・25)

 先日の婦警さんとカナダ人との記事があまりにも面白かったんで、いつもは余り話題にしない警察官の話を取り上げました。

 アメリカの警察機構は非常に複雑です。ずいぶんアメリカで暮らしているつもりなんですが、警察機構と云うのが未だによく分かりません。警察の機能に該当するような内容のことをする機構があまりにもたくさんあるんです。

 一番身近なのは市を管轄区とする市警察。複数の市の集合体である郡を管轄するシエリフ。道路を中心に活動するハイウエーパトロール。州の資産を担当するステートポリス。連邦を管轄するFBI等が良く知られているのですが、それ以外に警察同様の捜査や逮捕権を行使出来る組織となると銃火機やアルコール関連の犯罪を取り締まるATF。密輸関連を取り締まるUSカスタム。不法滞在などを取り締まる移民局。国境警備隊に沿岸警備隊、それにマーシャル等々。まだまだ上げられると思います。そんな訳で、今でもどういう分担で各々の組織が担当をこなしているのか?アメリカの役所機構と云うのは比較的簡単で組織も小さいのですが警察機構だけは互いの組織が独立していて複雑な感じを持っています。

 その中で我々の暮らしの中で一番身近なのが市警察となるので、今日は市警察の警察官だけについて話してみたいと思います。以前書いたことがあるかもしれませんが、市によっては予算が無いと云う理由で市の警察を持たないところもありますし、隣の市にお金を支払って、隣の市警察の援助を受けている町。警察と消防が一つの組織になっていて職員は警察官兼消防士。必要があればどちらの役割も果たす等と云う市もあります。

 警察官のことは英語ではPoliceになる訳ですが、実際に警察官はPoliceと名乗っても、周りの人でPoliceと呼ぶ人は少なく、通常はCopと呼ばれていますが、特に悪い意味あいを持った言葉では無いと思います。警察官は市の職員であり、市が採用します。また警察署長は市長の任命になっていますから、市長が代わると警察署長も交代することが良く起こります。ですから人選には多少政治性を帯びてきます。警察署長はランクの高い警察官から選ばれることもありますが、署内に適当な人材がいないと市長が判断した場合、他の市で実績のある警察署長をスカウトして、地元警察署長に迎えるなどと云うことは良くあります。

 言い換えると警察署長専門職と云う訳で、実績が無ければ解雇されるし、実績を上げれば他の都市から声がかかり、より良い条件で就職出来ると云う訳で、警察署長も在任中には存在感をアピールし、何をしたと世間が認める実績作りが重要な仕事になる訳です。

 警察官の制服は統一されていません。紺色やカーキー色が多いのですが、市単位で色やデザインに違いがあります。ファッション性を重要視した市、伝統的な制服を重んじる市、非常に安価な制服で済ませている市等、各地の警察官の制服はその市の特徴をよく反映しています。
また男女警察官の服装と装備は全く同一であるのが普通で、私がアメリカで暮らし始めて以来、スカートをはいた婦警さんを見たことがありません。ただ、女性にとってフル装備の状態は相当な重量になると思いますので、かなりきつい仕事だと思います。

 装備の中で目立つのはやはり拳銃です。男女共に大型拳銃を持つ警察官が多く、警察官の持つ拳銃は支給品では無く、自分の身を自分で守るということから、自前と云うシステムを採用している市が大半だそうです。

 警察業務運営上の大きな違いはアメリカには日本のような交番システムが無く、基本的に外勤の警察官は本署からパトロールカー(これはPolice Carと呼びます)で自分の管轄地域を巡回するシステムです。ですから町中、住宅地に関わらず、パトロールカーはひっきりなしに走っており、道路を走っていると右から左からパトロールカーで出てくるなんてことはよくあります。他の巡回の乗り物としては白バイに該当するオートバイが中心ですがパレード等の行事の交通整理には馬が使われます。また、狭い場所での機動性の良さと云うことから増えているのがマウンテンバイクの利用で、これを利用する警察官は自転車用のヘルメットにポロシャツと短パン、膝あての軽装な制服に拳銃等の装備と云う訳で今までの警察官とは全く違ったイメージにうつります。

 個人的には警察官とのつながりはほとんどありません。ただ最近は住民間の近所つき合いが犯罪を抑止する効果があると云うことで、近所の人々に対して、この地域の過去に起こった犯罪内容とか犯罪率、万一の備えや警察への通報先等について解説する等、警察官と住民の接触をはかる努力はしているように感じます。ただ、概して日本の警察官と比べると同じ逮捕にしても、随分荒っぽいように感じられます。全てがそんな訳ではないと思いますが、ある市の警察官に逮捕されると、半分の人間は半身不随になると皮肉られたことがあります。

 犯罪の凶器の大半が拳銃であるという犯罪構造から、警察官と云う職業の死亡率は高く、北カリフォルニアでも警察官が殺されると云う犯罪や事故は耐えません。そんなことから、どうしても防衛的な行動を取らざるを得ないと云う結果、警察官に射殺された犯人とか被疑者も多く、人口97万人のサンノゼ市では今年、既に6ー7名の人間が警察官によって射殺され、その数があまりにも多いと云うことで、市で問題になり始めています。

 さて警察官の外国語能力です。サンノゼ市の隣の市にある小学校で、生徒の両親が自宅で話す言語を調査した結果、一つの学校の中で26ケ国語あったと云うとうり、移民者の多いこの国にはアメリカで暮らしていても英語を得意としない人達が多い訳です。特にカリフォルニア州のように世界中から人々が集まってきているような市では、警察官も英語だけでは地元の人間とコミュニケーションが出来ず、その住民サービスが出来ないばかりか、万一の場合は言葉の問題から生じた誤解によって、誤認逮捕とか事故を起こすケースが増えてきており、警察も英語以外の外国語を使える警察官を増やすことに相当な力を入れています。

 例えばメキシコ系住民の多い地域の担当者をメキシコ人系警察官にしたり、ベトナム人系住民の多いところはと云う具合です。それでも警察官の外国語能力となると日本以上に寂しい限り、まして、日本語となるとほとんど期待できそうにありません。

 まあアメリカの警察官も色々な努力はしている訳ですが、自分が個人的に感じることは日本の警察官の方がずっと住民に密着していると思います。ただ、その結果がプラスとマイナスの面で出て来ていると思います。私は新聞の記述程度の知識しかありませんが、先日、神奈川県で起こった中州でキャンプをしていた人達が川の増水で大惨事となったと云う事故がありましたが、新聞の記事によると警察官がキャンプをしている人達に移動するよう求めたのに対して、キャンプをしていた人達は自分達のことはほって置いてくれ!と警察官に言ったそうで、その言葉に対して警察官は増水に注意するよう伝えて引き上げたようですが、アメリカであればキャンプしている人がそんなことを言った時点で逮捕され、他のキャンプしていた人達全員はその場で退去させれたと思います。そうであったのなら逆にあの惨事は起こらなかったかもしれません。