修行中の身と無料の演奏活動
角館町の祭典で鍛えた横笛、いつかはテレビにも(12月24日・月)
国指定重要無形民俗文化財になっている「角館町の祭典」。木造戦車のような山車(だし)と山車とが激突する“山ぶっつけ”を華麗な音で彩る「飾山囃子(おやまばやし)」の「横笛」奏者として中学時代から活躍している田沢湖町神代字柏林の安藤陽介さん(19)は今、横笛奏者のプロを目指して駆け出し中だ。和楽器の一つである「横笛」の美しい音色を聴いてもらいたいとホテルなどに手作りのチラシを配り、声が掛かれば料金無料で演奏に出かけたいとしている。お金を取らないのは「まだ修行中の身だから。多くの人に聴いてもらい、認めてもらうまではお金はもらえません」と安藤さん。23日の昼には大曲市栄町の日本キリスト教団大曲教会の「クリスマスの集い」で演奏し、参会者を喜ばせた。
安藤さんは今年の春に県立大曲農業高校太田分校を卒業した。卒業後の道は「横笛奏者のプロ」を目指すと決めていた。父のトラック運転手・三男さん(45)も「若いうちは好きなことをやらせたい」と安藤さんの選んだ道を見守る。
中学生の時から角館町の祭りに参加。山車に乗り込み、飾山囃子の横笛奏者として演奏してきた。そのかん高い澄みきった横笛の音色に魅せられ、将来は「絶対にプロになるんだ」と夢を燃やし続けた。高校に入ってからも老人ホームを訪問しては、角館の祭典で演奏する「寄せ囃子」、「上り山囃子」や「下り山囃子」も含め「秋田おばこ」や「秋田甚句」などを演奏して聴かせた。
「横笛の演奏はお年寄りには受けるけど、同じ年代の人たちからはダサいとバカにされる。それなら自ら演奏に出向き、その良さを知ってもらいたいと思った」と安藤さん。地元、田沢湖町の観光ホテルや角館町のホテル、さらに大曲市内や横手市、湯沢市にも足を延ばして手作りのチラシを配り、「忘年会や新年会のお客さんの前で演奏させて下さい」とお願いしている。人前で演奏することこそ修行になるからだ。まだお呼びは掛からないが、ホテル側は「面白い。お客さんの要望があったらお願いする」と好意的だと言う。
安藤さんはさらに演奏した曲をテープに録音して、東京のレコード会社などに送り込んでオーデーションも受けている。「津軽三味線は最近、テレビでも見直され、番組に良く登場するようになった。横笛だって和楽器の一つ。ジャズとセットになって演奏してもリズム感で負けない。横笛のプロとして、いつかはテレビにも出られるよう頑張る」と切れ長な目を燃やした。
その安藤さんはクリスチャンの一人。安藤さんの生れた神代字柏林の人たちは全員がクリスチャンだからだ。柏林集落は戦後の開拓事業で生れた。1948年(昭和23年)に入植した16戸の家族全員がプロテスタントのキリスト教信仰で堅く結ばれ、極貧の開拓期を信仰の力で乗り越えた。今も大曲教会の横井伸夫牧師が毎週、同集落の集会所を訪れて礼拝活動を続けている。
大曲教会の「クリスマスの集い」に安藤さんを招いたのはその横井牧師だった。信者の人たちに安藤さんの横笛演奏を聴いてもらい、少しでも安藤さんの励みになればと声をかけた。「降誕祭主日礼拝」の後の「愛餐会」の席上で安藤さんは演奏を始めた。30人ほどの信者たちはお昼のカレーライスを食べ終え、安藤さんの演奏に耳を傾けた。角館町の祭りのお囃子や「秋田おばこ」「秋田甚句」などを独特のキレと迫力で演奏。みんなにこやかな笑顔でその音に聞き入った。
「今日はクリスマスの集いですので、クリスマス音楽を演奏してみます」と安藤さん。緊張しているせいか、額には大粒の汗。そして途中で音程が狂う場面も。「こんなはずでは・・・。こんなはずでは・・・」と悔しがるが、聴いている人たちが注ぐ温かい目、笑顔は変わらない。思い直して安藤さんは再び横笛を手に「サンタが町にやってきた」などを演奏すると、みんなは手を叩いて喜んだ。
「プロとして認めてもらえるまでは演奏料はいただきません。声が掛かったらどこへでも行きます。もちろん足代も自己負担で」。安藤さんの決意は堅い。生活費はこれまでアルバイトをしながら稼いできた。安藤さんを招いた横井牧師は「とてもいい演奏でした」とねぎらった。安藤さんの連絡先は0187−44−2711。