大曲市の藤原さん
国内で20人、空手の「神さま」を祝おうと仲間が祝賀会の準備(10月31日・木)
大曲市白金町の藤原聖一さん(52)=大原旅館=は剛柔流空手道の最高峰「八段」に昇格した。今年8月に全日本空手道連盟剛柔会本部主催の全国大会が長崎県佐世保市であった時、本部から八段の受審認可を受け、厳しい実戦実技と論文審査を受け、合格した。15人の受審者のうち、合格したのは藤原さんを含め2人だけ。剛柔流空手道で50代で「八段」の頂点に立ったのはこれまで2人しかいない。しかも八段の取得者は藤原さんを含め、全国でたった20人。昨年は流派にこだわらない全日本空手道連盟から「七段」の資格を認定されている。藤原さんの弟子や仲間は「空手道で八段と言えば神さまのようなもの」と喜び、藤原さんの昇段を祝う祝賀会の準備を進めている。
藤原さんは29日夜、空手指導のため滞在していたイギリス、スロバキア、オーストリアから帰国したばかり。毎年2回はヨーロッパを中心に海外で指導をしている。八段の受審資格を得るには七段になって7年以上の経験が必要。藤原さんは1995年に「七段」に昇段した。しかし、経験を積んでも八段を受審するには本部からの推薦を受けなければならない。藤原さんの場合、海外での指導経験11年の実績が本部から高く評価された。
だが、本部から推薦があっても七段から八段への昇段は並大抵のものではない。審査員が見守る中、指定された「形」の演技を行い、仕掛けられた技をどう裁き、攻撃するか実戦実技を見せ、その技の解説、さらに空手と自分とのかかわりで得たものは何かなどをテーマにした論文も提出しなければならない。一回で合格するのはごくまれで、普通は4回から5回も挑戦してやっと八段の資格を得るのが普通。それを藤原さんは一回の審査で合格した。本部からは十数年ぶりの記録だと珍しがられたと言う。
藤原さんは横手市出身。空手を始めたのは千葉商科大学に入った17歳の時から。それまでは陸上競技の選手だった。大学に空手部があるのを知って「格闘技を身につけ、強くなりたい」と入部した。一緒に入った仲間は80人もいた。ハードで厳しい練習にほとんどが根負けし、3カ月後に残ったのはわずか10人だった。しかし、練習が厳しくても上達するに従い、藤原さんは空手の面白さにはまった。
大学を卒業すると同時に空手部の先輩が経営していた千葉県の建設会社に入社。そこに2年半勤務したが、剛柔会本部から声が掛かって大学空手部のコーチに就任。その時の藤原さんは三段だった。
そのころ藤原さんの実家では横手市から大曲市に移って旅館業を始めた。その両親から「旅館を手伝ってもらいたい」と声が掛かり、73年秋に大曲市へ帰った。旅館を手伝いながらも空手は忘れられず、翌年10月に若竹町に空手道場「誠和会」を創立させ、指導を始めた。現在はそのころの後輩が育って、秋田市や横手市、神岡町、中仙町など7支部の道場へと膨らんだ。藤原さんは現在はもっぱら市内の高校生を相手に市の武道館や若竹町の道場で空手の指導をしている。その間にヨーロッパを中心に海外指導に出かける。
藤原さんは話す。「小学生をはじめ空手を学びたいと言ってくる子どもたちは『ケンカに負けたくない。強くなりたい』と入ってくる。でも、空手はケンカに強くなるため学ぶものではない。子どもたちにはまずマナーを徹底的に指導し、技よりも人間を磨くことに努めている」と。空手はその技をむやみに使うと危険を伴う。剛柔流は「人に打たれず 人を打たず 事なきを基とする」がその精神基盤。「相手に嫌な思いをさせないために自分はどう生きるかが空手道の基本です」とも。
藤原さんの指導を受けた小学生たちは4、5年生になると学校の部活にも入る子も多いが、空手を学んだ多くの子どもたちはその部のキャプテンなどリーダーに推薦されるのが多いと言う。藤原さんが育てた弟子は1000人近い。4年前からは剛柔会本部の8人の指導委員としても活躍している。今でも空手をやる時の白い「道着(どうぎ)」を着け、道場で毎日、体を動かす。「道着を着けて体を動かさないと不安になるんです」と藤原さん。その柔和な笑顔、ソフトな口ぶりからは空手の〃神さま〃と称される厳かさは少しも感じさせない。
今月15日から29日まで海外で指導してきた藤原さんは「海外の剛柔会のメンバーは7500人を超えた。ヨーロッパ本部長とも話したが、世界中に仲間がいるので、東京にその仲間が集まれる施設を作りたいなと話し合った。それがこれからの夢です」と藤原さん。海外に出張しても「言葉」は心配ない。留学した際に空手を学んだ現地の人たちが通訳を買って出るからだ。「外国語を覚えると、その国の習慣に巻き込まれ、妥協してしまうんです。あえて覚えないことにしてます」と藤原さんは笑った。11月23日には市内のエンパイヤホテルで藤原さんの昇段を祝う「祝賀会」が仲間とその弟子の主催で開かれる。