東京の食通グループ「豪農の館」で豪遊
南外村の「出羽鶴」社長邸でぜいを尽くしての宴(2月28日・水)
出羽の国の豪農の館で雪と酒と味を楽しみたい−と27日夜、南外村の酒蔵「出羽鶴酒造」の社長宅の座敷を借り切って、東京で「食文化」の向上を狙って語り合っているグループ18人が、津軽三味線の生の演奏や角館町の祭典の「飾山囃子(おやまばやし)」を楽しみながら、「雪と酒と料理」を味わう“ぜいたく三昧(ざんまい)”な宴を敷いた。出羽鶴酒造社長の伊藤辰郎邸を訪問したのは東京都八王子市で手広く料理店を経営している株式会社「うかい」の鵜飼貞男社長を中心とした映画監督や設計士、学者ら。いずれも食通で知られたグループ。築後150年の歴史を持つと言われるかやぶき屋根の伊藤邸。一部二階建て150坪という大邸宅の玄関前にはかがり火がたかれ、雪道に迎えの灯籠が灯されるなど雪国ならではの風流な舞台設定。雪で埋まった庭はライトアップされ、料理人などスタッフ11人もすべて「うかい」の社員。不況が吹き飛ぶような豪華さだった。
株式会社「うかい」は八王子市で「うかい烏山」「うかい竹亭」「とうふ屋うかい」などを経営。うかい烏山だけで年間17万人もの客が訪れ、外国人の間でも人気の料理店だという。一行はこれまで飛騨の高山から移築した合掌造りの「うかい」の店で「食文化の向上」をテーマに料理に関して、辛口の批評をしながら酒と味を楽しんできた。今回は趣向をガラリと変えて、津軽三味線を聞きながら、青森の豪農の館で「雪と酒と味を楽しみたい」と企画。そのために青森県を訪れて豪農の館を探しにロケーションの旅を重ね、龍飛岬まで足を運んだと言う。
舞台設定を任された「うかい烏山」店長の滝沢征男さん(53)は「青森のあちこちを探し回ったが、イメージにあった家がどうしても見つからなかった。私自身が平鹿郡大森町出身で、出羽鶴さん宅の威風堂々とした家の構えは覚えていたため、この家のムードなら喜ばれるだろうと思って、伊藤社長さんに座敷を貸していただけないかと今月初めにお願いした」と話す。依頼を受けた伊藤社長は「この真冬の寒い時期に座敷で飲んだらみんな寒さでかぜを引いてしまうと断ったのですが、滝沢さんの熱心さにほだされてしまいました」と笑う。
うかいのスタッフ一行11人は紋付き袴姿で午後1時ごろから伊藤邸の台所に上がり込んで料理作りを始めた。献立は「鱈(たら)のだだみ どんがら汁」「ひろっこのからしみそ合へ」「真鴨(まがも)とつくねいものたきあわせ」「寒鰤(かんぶり)」「ハタハタの飯寿司」「比内鶏のきじ焼き」など。それに出羽鶴秘蔵の様々なお酒が用意された。 「とにかくお客さまに秋田の旬の味を楽しんでもらいたいし、豪農にだけ許されたぜいを尽くした料理と人寄せするときの雰囲気を楽しんでもらいたい。そのためには出羽鶴さん宅の風格のある家しかないと思った」と滝沢さん。伊藤社長は「我が家では座敷を貸すだけですが、亡くなった親父(おやじ)の兄弟は13人もいて、当時はこの家も随分、にぎわったものだ。今は3人家族で暮らしているだけだが、大勢の人が来てくれたせいか今日は家そのものまでが喜んでいるようだ」と感慨深げ。
夕方には雨の天候になったが、来客たちは滝沢さんが用意した蛇の目傘を手に、昔のわらぐつに履き替えて、雪国の生活を堪能する女性も。紋付き袴姿の滝沢さんらの出迎えを得て、一行は伊藤邸の冠門(かぶきもん)をいそいそとくぐった。かがり火のたかれた玄関前では、津軽三味線の第一人者としてテレビでも活躍している沢田勝秋さん(弘前市)が三味線を演奏して一行を迎えると言う趣向。正面玄関で伊藤社長夫人が和服姿で出迎え、左手に広がる座敷へと上がった。
廊下には6台ものファンヒーターが用意され、15畳、8畳、8畳の和室がL字型に並ぶ部屋に上がり込んだ。窓越しに見える庭はライトで照らされ「いやー。きれいだ。これはいい」と雪で埋もれた庭の景色に満足そうな表情。それだけでなく150年の歴史を刻んだ和室の重々しい風格にもみな目を丸くして「雪といい、部屋の重み、風格といい最高です」と大喜び。お膳に「うかい」のスタッフが次々とお酒と料理を運び、伊藤社長らと席を並べて宴は始まった。津軽三味線の沢田さん、沢田勝華さんが間もなく座敷に入って演奏を開始した。見事なバチ裁き、切れるような三味線の音が座敷に響き、一行は飲むのも忘れて耳を傾けた。さらには角館町からも飾山囃子の一行13人が駆けつけ踊りと演奏を披露。
鵜飼社長は「雪国で生活している人たちは大変でしょうが、とにかく雪国の生活を観たかった。雪国の生活のにおいにふれてみたかった。窓越しに眺めた雪の風景。それに出羽鶴さんの酒、秋田の料理も最高です」と話していた。ちなみにこの日の酒、料理、津軽三味線、飾山囃子などの経費一切は「うかい」持ちとか。「みなさんからは食文化の面でそれ以上のものを与えられ、勉強になります」と滝沢さん。津軽三味線の沢田さんも飾山囃子の一行も「今時、このような豪遊を考えられる人がいるから驚きだけでなく感激です」と目を丸くしていた。