夜空の旅人たち

西木村の紙風船上げ(2月11日・月)

 西木村の冬祭り「紙風船上げ」が10日夜、同村上桧木内の特設会場で行われた。家内安全や五穀豊穣、そして交通安全や商売繁盛などの祈願を込めて作られた巨大な紙風船が100個ほど上げられ、会場を埋めた観光客は漆黒の闇を突いて舞い上がる幻想的な光の旅人の行く末を見上げながら冬の夜の祭りに酔いしれた。

 同村の紙風船上げは江戸時代の科学者・平賀源内が旧秋田藩の招へいに応じ、阿仁銅山の技術指導に赴く途中、同地に宿泊し、村人に伝えたとの言い伝えがある。和紙を張り合わせた筒状の紙風船は高さ6メートルもの大きさ。中には10メートルを超える巨大なものもある。今年は青森県の弘前東工業高校の生徒たちも特別参加し、高さ15メートルもの特大の紙風船に挑戦、見事、打ち上げに成功した。

 同村の紙風船上げは8集落約260世帯の人たちが、暮れの12月ごろから作り始め、この日に備える。和紙を張り合わせ、武者絵や美人画を描く。子どもたちは漫画のキャラクターを描いて楽しむ。以前は集落ごとに小正月祝いとして上げたものだが、村の観光行事にしたいと役場からの申し入れがあった20年ほど前から田んぼを踏みしめた一つの会場で上げるようになった。

 それでも村の人たちだけで楽しむこじんまりとした祭りだったが、インターネットや旅行雑誌で紹介され始めた3年前から急激に人気を呼び、東京や北海道などからも観光客が訪れるようになった。このため村を上げての行事となり、この日も1万人を超える人出で賑わった。

 会場にはおでんや焼きとり、そば、うどん、お酒を販売するテントも張られ、観光客はその中で暖を取りながら祭りに参加。時折、激しい雪も舞い降りた。紙風船はガスバーナーの炎で中の空気を温めると命が与えられたように膨れ上がり、夜空にユラユラと舞う。観光客がその裾をつかみ、完全に膨張するのを待つ。熱風を送り込む裾は直径1メートルから3メートルほど。竹の輪で固定し、その輪に針金を十字型にはり付け、タンポと呼ぶ石油をしみ込ませたぼろ布に点火すると、その熱をエネルギー源にして紙風船は夜空へ旅立つ。

 舞い降りる雪を突いて巨大な行灯(あんどん)のような形をした紙風船が舞い上がる都度、見送る観光客は「上がった。あがった」と喜び、空を見上げた。午後6時ごろから次々に打ち上げられる紙風船は、漆黒の闇を時には流れ星のように、時には北の空を舞うホタルのようにさえ見えた。東京から駆けつけたという二人の女性は「とってもロマンチック。私たちも上げるのに参加できたし、この手で握った紙風船が上がった時の感動は忘れられない」と感激していた。西木村の紙風船上げは多くの観光客の夢や希望を吸い込んで夜空の旅人となって消えた。