大曲市角間川町の尋常小学校卒の人たち
98歳、90歳の恩師を招待、戦死した同級生をしのび長寿を祝う(6月12日・水)
80歳の傘寿を迎えた人たちが、98歳と90歳になる小学校時代の恩師を招いて11日、大曲市角間川町の角間川温泉「角水」で同級会を開いた。残念ながら98歳の男先生は体長を崩して入院したため同級会には顔を出せなかったが、「みんな80歳を迎えての同級会おめでとう。80年間の変化、よくぞこらえて来たもんだ。尊い人生だったナー。これで立派に死ねる。盛会を祈る」と毛筆のメッセージを寄せた。集まった19人は80年間のもろもろの思い出に「花」を咲かせ、「こんなめでたいことはない」と喜んだ。
一行は当時の平鹿郡角間川町立尋常高等小学校第62期生。1929年(昭和4年)3月に入学し、35年(同10年)4月に卒業した。当時の同級生は男子58人、女子45人の103人。しかし卒業してから6年後の41年12月8日に始まった太平洋戦争に男子の多くが召集され、15人もの戦死者を出している。
今回の同級会は3年前の喜寿(77歳)の同級会の集まりの時から約束していた。元大曲市議の平野兵吉さん=角間川町字東中上町=、川越金さん=藤木字一本木=が発起人となって恩師が健在のうちに80歳のお祝いをやろうと呼びかけた。
その恩師は鎌田謹一郎さん=藤木字上野中=と寺田八重さん=角間川町字大浦町=。鎌田さんは平野さんらが入学した時の担任だった。寺田さんは平野さんらが2年生と3年生の時の担任だった。103人の同級生のうち、消息が分かっていて健在なのは男子18人と女子25人の合わせて43人。
この日の同級会には当初21人が参加する予定だったが、一人は体長を崩して入院、もう一人も血圧が上がってドクターストップをかけられた。結局、参加したのは男性13人と女性6人の19人だった。遠くは神奈川県茅ヶ崎市からの参加もあった。11日は午後3時に温泉旅館「角水」に集合。当初は全員で神社を参拝して“長寿”のお礼を報告する予定だったが、雨で代表だけが参拝した。しかし、戦死した郷土の英霊159柱の中に同級生15人が祭られている近くの「和光殿」への参拝は欠かせないと、全員が訪れて頭をたれた。
一行は「角水」で一休みしながら、遠い昔を懐かしんでいたが、近くに住んでいる寺田先生が顔を出すと「先生!。いやいや先生」と感極まった声を挙げ、顔は喜びでクシャクシャとなった。そして拍手が沸いた。男性たちは甘えるような声で「先生。ここさ座ってたいで」と床の間を勧めた。少し腰の曲がった寺田先生だったが、いたって元気。「80歳になる教え子の人たちから呼ばれるとは思ってもいなかった」と顔いっぱいに喜びを表した。
寺田先生は「わたし、19歳の時から先生やったの。そして最初に教えたのがこの子たちだった」と懐かしみ、「受け持ったのは男組で、当時の子どもたちはみんな鷹揚な子が多かった。中にはキカネ(ちょっと乱暴な)子もいたが、みんな可愛かった」と目を細めた。辛かったのは戦争が始まって、教え子たちが次々と戦死したとの報告を受けた時だったと言う。「15人も戦死して、その中には一人っ子が3人もいた。子を亡くした親の悲しみを思うと気の毒でならなかった。当時はそんなこと口にも出せなかったが」と顔を曇らせた。
全員で記念写真を撮る時も、部屋で自由に過ごす時も、80歳の同級生はみんな当時の小学生に戻ったような童顔だった。寺田先生を囲んで甘えるようなしぐさを見せる男性もいた。「先生が90歳とは思えない。私たちと同じよ」と寺田先生の若々しさに感動する女性の喜びの声もあった。みんな80歳とは思えぬ若さだった。
宴会に入って、みんなを喜ばせたのは鎌田先生からのメッセージが読み上げられた時だった。「盛会を祈る」と書いた後に「サギオドより強い」と褒め言葉があったからだ。サギオドとは火回り当番として拍子木を叩きながら毎晩、「火の用心」を連呼しながら町内を回り歩いたオヤジさんで、当時の子どもたちは「男鹿のナマハゲよりも怖かった」と恐れたものという。その「サギオドより強い」と鎌田先生は教え子たちの長寿を病床から祝ったのである。しかも「おみぎ(お神酒)は必ず飲んでけろよ」とご祝儀まで添えて。
一行の自慢は同級生の中に詩人として中央詩壇で活躍した故・本郷隆がいることだ。詩人・本郷は東大文学部卒。中央公論社に入社し、数々の詩や詩論を発表、1971年に詩の世界の芥川賞と言われる「第9回歴程賞」を受賞。そして郷土の数々の小・中・高校の校歌も作詞している。中でも73年に病床の中で作詞した大曲南中学校の校歌「世界の美のなかに目ざめよ」は本郷の郷土愛、哲学、芸術が凝縮された名作として知られている。本郷はこの校歌を完成させてから6年後の79年、56歳で逝去している。
一泊した一行は12日、地元の特別養護老人ホーム「サンサルビア」を訪問したり、浜倉を見学し「明治天皇巡幸と角間川」を主題にした郷土史を勉強した。そして午後からは南中を訪問。佐々木茂校長の歓迎を受けて、同級生の本郷が作詞した交声曲「世界の美のなかに目ざめよ」の演奏を聴いた。交声曲は美しい詩と合唱とが交互に繰り返されるもので、演奏時間は13分にも及ぶ。151人の南中生徒は大先輩たちの目の前で渾身の思いを込めて詩を朗読し、歌った。同級生・本郷の作詞した南中の校歌を初めて聴いた平野さんらは時折、目を閉じ、本郷の詩の言葉が心に刻み込まれるのを祈るような表情で耳を傾けていた。