「憧れでした」と大阪のご夫妻が買い求める
山に囲まれた生活、喫茶店も開けたらと夢を育む(5月1日・水)
大曲市内小友字小出沢は周囲が山に囲まれた戸数わずか14戸の小さな集落だ。その小出沢からさらに1キロほど山奥に入った「熊ノ沢」と言う袋小路のような所に1軒だけ、忘れ去られたような茅葺(かやぶ)き屋根の民家がポツンとたたずんでいる。おばあさんがずーと一人住まいをしていたが、そのおばあさんも亡くなり、空き家になってもう10年ほどになる。茅葺きの屋根は痛み、家の中から青空が覗けるような朽ちた民家だ。山間(やまあい)の中にひっそりとたたずみ、この世から見捨てられたようなその家を気に入って、出来れば移り住みたいと土地ごと買い求めた大阪の夫妻がいる。“大阪”と言う大都会を離れて、秋田の田舎を気に入った二人。移り住んでも将来、どのような仕事で生活するのかは二人ともまだ漠然としているが、山しかない自然環境、隣に1軒も住宅がない静けさが「憧れだった」と話す。
夫妻は大阪府貝塚市在住の生長(いきなが)保義さん(47)、経子さん(44)。夫の保義さんは岸和田市役所の職員で、建設指導課に勤務している。妻の経子さんは喫茶店の経営者。二人がこの家の存在を知ったのは昨年夏。やはり東京という大都会を離れ、15年前から内小友字堂ノ前に移り住んで、柴犬の研究に打ち込んでいる五味靖嘉さん(60)夫妻から「近くに茅葺きの空き家があるんだ」と紹介され、見せてもらったのが切っ掛け。
生長さんはその民家を見て「都会では想像もつかない環境にあると思った。しかし、家を見たら雨漏りもひどく、この状態で放っておいたら早番、崩れてしまうのではないか。このまま朽ち果てさせるには惜しいような気がして後先も考えず、衝動買いをしてしまった」と話す。空き家は亡くなったおばあさんの親類の方が引き継いでいた。山を含めて2万3100平方メートルもの敷地や田んぼもあるが、山は持ち主と持ち主との間の境界がはっきりしないため、登記簿に記載されている土地と建物だけを買い求めた。
「安月給の身でも買える値段だった」と生長さん。買い求めてからどうしたらいいかと考えたが、買った家なんだからやはり住んでみたいと山歩きが大好きな保義さんの夢は募った。経子さんも「目の前にあるのは山ばっかり。こんな素敵な環境はない」とすっかり気に入った。しかし、二人の心配は冬の雪だ。「住むとなったら、まずここまで市役所が除雪してくれるのか。それに飲み水も解決しなければならない」と不安も伴う。飲料水は前に住んでいたおばあさんも山の沢水を利用していた。水はそれを利用すれば解決しそうだが、問題は除雪。
「以前におばあさんが住んでいた時も市の除雪車はここまでは入って来なかったと聞いている。除雪車が入って来ないようでは冬は過ごせない」と気にする。その二つの問題が解決しさえすれば、将来、74歳と67歳になる両親共々、一緒に住みたいとも考える。しかし、両親は「雪のある所で果たして暮らせるか」と迷っているとか。「移り住んでからの生活はそれから考えればいい。習い掛けている陶芸もやってみたい」と保義さん。そして「秋田はお米がおいしいし、お酒もうまい。いい温泉もあって生活するには楽しみも多い」と希望を燃やす。経子さんも「住むとなれば私も仕事をしたい。大阪では有田焼の陶器に凝ったコーヒー専門の喫茶店を経営しているし、この家を改造して民芸風の喫茶店にすることも考えたい。山の中でとても不便だけど、それでもお客さんが来てくれるような喫茶店をつくってみたい。喫茶店がだめなら正看護婦の免許もあるので、病院勤務を考えたらいい」と前向きだが「雪道に慣れてないし、冬はやはり心配」と不安も抱える。
家を紹介した五味さんとは柴犬が縁で知り合った。二人とも子どももなく、新聞広告で五味さんの存在を知り、柴犬を飼った。それから夫妻の交流が始まり、秋田の片田舎で犬と共に生活する五味さん夫婦の生活にも憧れた。
二人はとにかく家の後片付けをし、生活できるまでの準備をしたいと27日朝に五味さん宅に来て、五味さん宅に宿泊しながら空き家の屋根の修理をやってもらっている。茅葺き屋根のため、その職人を探すのに手間取ったが、五味さんの手配でどうにか見つけ、4人の職人が屋根に上がって修理している。二人が買い求めた民家は築造してから85年にはなるという。厩(うまや)もある昔風の建物。大きさは165平方メートルほど。
保義さんは「住めるようにするには屋根だけでなく、家の中もいろいろと修理しなければならないが、自分で楽しみながらこつこつとやってみたい」と話す。今回の滞在は4日までだが、夏にはまた戻って住むための準備をすることにしている。
除雪の問題について市建設交通部土木課では「せっかく、こちらに住んでくれるというのなら検討してみたい」と前向きだ。