車いすの愛犬「チャンプ」が本に
大曲市の三浦さん、幻冬舎から依頼を受けて出版(8月6日・水)
車いすの犬として新聞やテレビで話題になったあの「チャンプ」が本になった。交通事故で下半身不随になりながら、飼い主が何とか生かしてやりたいと車いすを作り、その車いすに乗って懸命に明るく生きた「チャンプ」。本は常にベストセラーを出し続けている「幻冬舎」から「ありがとう、チャンプ??車椅子の犬と歩んだ15年」と題して出版された。飼い主で、大曲市大曲西根でスポーツセンターを経営する著者の三浦英司さん(61)は「懸命に生きたチャンプを何かの形で残したかった。子どもたちやその親に生きるすばらしさや命の重さも伝えたかった。チャンプは本となって私に恩返しした」と話す。本が出て以来、三浦さんには全国から「感動した」との電話や「我が家にも同じような障害の犬がいる。車いすを作ってもらえないか」と依頼が来ている。
チャンプは牧羊犬の一種、ビアデッド・コリーのオス。16年前の夏、知人が経営するペットショップから「売れ残り」と言う不名誉な代名詞をもらって、生後2カ月で三浦さんに引き取られた。やんちゃで、サンダルをくわえて良く遊ぶ犬だった。訓練のため、警察犬訓練学校に入れたら2回もチャンピオンに輝く優秀な犬でもあった。
そのチャンプが事故に遭ったのは2歳の秋。自宅前の国道105号で車にはねられ、背骨を折った。獣医師は「下半身は完全に麻痺(まひ)。もう歩くことは一生、できないでしょう」と宣告、「どうしますか」とさりげなく「安楽死」を口にする。しかし、チャンプの目に「生きたい」との意志を見た三浦さんは「私たちは、チャンプと一緒に生きていきます」と歩けなくても、声も出せなくても手術で生かす道を選んだ。
しかし、「チャンプと共に生きる」と決意したもののそれからは壮絶な命との闘いとなった。おしっこもうんちも自分でコントロールすることが出来ず、歩けないストレスから自分の周囲にあるものを手当たり次第にかみ、歯はボロボロ、さらに全身の毛は抜けてしまった。
「運動させれば、気がまぎれるかもしれない」と三浦さんは考え、動かない後ろ脚を持ち上げ、膝を曲げては伸ばし、曲げては伸ばすリハビリをした。そのリハビリを受けるとチャンプは元気に走っていたころを思い出したかのようなきりっとした表情を見せた。そして後ろ脚を背中と同じ高さに持ち上げたら、ちょこちょこと前脚だけで歩き始めた。そうしたチャンプの姿を見て、三浦さんは「車いす」を作ることを思いついた。
三浦さんの本業は建設資材の販売や土木機械のリース業。アルミでチャンプの胴体を乗せる台を作り、工事現場で使う投光器に付いている移動用のタイヤを利用して、体重20キロ近いチャンプを支えられる車いすづくりに挑戦した。冷たいアルミにそのままチャンプを乗せたら冬は冷たさでビックリしかねないとスポンジを巻き付け、後ろ脚の付け根を塩化ビニールパイプで引っかけ、足をそのパイプの中に収めるようにするなど試行錯誤の工夫を凝らした。しかし、チャンプの体にフィットする車いすが完成するまでは改良に改良を加える根気と積み重ねが必要だった。
アルミの板を直接、チャンプのお腹に当てて、それに合わせて湾曲をつけていくなどやっとチャンプの体に合った車いすが完成したのは事故から4カ月後の1990年2月だった。5台目だった。
車いすで歩けるようになったチャンプは再び命の輝きを取り戻し、雪の中に入って遊んだり、春になると野に咲く花の香りを嗅いだり、農家の田んぼ仕事を眺めたり、小川のほとりで魚の跳ねるのを待っていたりと生きる喜びを満喫するようになった。そして抜け落ちた毛もふさふさに戻った。
三浦さんは夜、チャンプの車いすを外すと、排泄のためにお腹をしぼり、動かない後ろ脚をマッサージするため600回の屈伸を13年間、一日も欠かさなかった。マッサージをしながら一日の出来事をチャンプに語りながら、チャンプが眠りに落ちるのを待った。
そのチャンプも昨年11月22日がんで亡くなった。15歳だった。人間で言えば80歳ほどの高齢だった。三浦さんはチャンプが病気で歩けなくなったのを前に語り合った。「なあ、チャンプ。お前はまるで人間のように、花の香りを楽しみ、風の匂いを嗅ぎ、太陽の力強さも、月の美しさも知っていたな」と。「そんなお前と生きてこられて、お父さんも幸せだったよ。お前に、幸せをもらったんだ」と。
チャンプが土に眠ってから翌年の今年1月。幻冬舎から「チャンプの本を出してみませんか」と社員が三浦さんの所へ訪ねてきた。「ウンと承諾してくれるまでは帰らない。そんな決意を見せての訪問だった」と三浦さん。それから記憶の糸をたぐりよせ、6カ月かけて400字詰めの原稿用紙260枚にまとめた。そして今度の出版。
今、三浦さんの下には熊本や山口県など全国から「本を読んで感動した。ありがとう」とお礼の電話や「我が家にも同じような障害の犬がいる。車いすを作ってもらえないか」と依頼が飛び込んでいる。三浦さんはボランティアでそうした依頼に答えている。チャンプは本という形になって新しい感動を全国に与えている。
さらにチャンプは光村図書出版の小学校道徳副読本「きみがいちばん、ひかるとき 4年」に「チャンプ、君のことを忘れない」で掲載されることになった。「命の尊さを感じ取り、生命のあるものを大切にする」趣旨で、05年から11年3月までの掲載期間となる。
ありがとう、チャンプは定価1400円。さわやかな感動をくれる涙のノンフィクションとして好評だ。