オペレーターは女性の高橋さん
大曲市のクレーンリース業「伊藤興業」(5月9日・金)
大曲市四ツ屋字上前村の有限会社「伊藤興業」は土木建設現場で欠かせないクレーンのリース業をしている。つり上げ荷重50トンの大型クレーン車2台、35トン1台、25トン5台、10トン2台、5トン2台の合わせて12台のクレーン車を持っている。ただクレーン車を建設現場に貸し出すだけでなくそれを操作するオペレーターとセットでのリース業だ。経営しているのは伊藤信男さん(52)。伊藤さんは元は兄の伊藤照男さんが経営する「伊藤住宅」=同市四ツ屋=の専務をしていたが、1990年から独立して個人でクレーンのリース業を始めた。そして95年から会社組織とし、クレーン車を持つ台数では仙北郡で最多のリース会社となった。つい最近も50トンの大型クレーン車1台を4700万円で導入したばかり。大型トラックより一回りも大きいクレーン車を運転し、複雑な機械操作をするのは男の世界かと思っていたが、同社では紅一点の女性オペレーターが活躍している。高橋恵子さん(35)=神岡町北楢岡=だ。その高橋さんを訪ねた。
高橋さんは96年から同社に勤務している。それまでは重機を運ぶ大型トラックの運転手をしていた。高橋さんが大型トラックの免許を取得したのは21歳の時だった。秋田自動車道の建設工事が進められていた当時、建設会社が女性の重機オペレーターを募集しているのを知って応募。「大きな車を運転してみたかった」。そんな憧れからだった。採用されて大型トラックの免許や車両系建設機械の免許を取得。ブルドーザーやバックホーなど土木機械のオペレーターとなった。
「大型トラックの運転は面白くて面白くて仕方なかった。高い運転席から見下ろすような感じで車を走らせる優越感が何とも言えなかった」と高橋さん。しかし、冬はスリップなど怖い経験も何度かした。それでも「まだ若かったし、大型トラックの運転は何とも言えない魅力があった」と高橋さん。しかし、秋田自動車道の建設も終わりに近づくと入社した会社も県外に本社があるため、退職した。そして伊藤さんの会社に入ることにした。
しかし、与えられた仕事はクレーン車の運転と操作だった。「社長にこんなのに乗れと言われたってトラックとは全然違うし、とても無理」と何度も断った。トラックならただ荷を積んで走るだけだが、クレーン車はハンドル操作だけでなく複雑なレバーやペダルを操作して鉄骨やコンクリート製品を持ち上げる作業が伴う。レバーだけで6本、さらに足元にはアクセル、ブレーキのほかに主巻き、捕巻きペダルなどペダルだけで7本もある。
「とても覚えきれない」。高橋さんは伊藤さんに言った。それでも説得され、栃木県にあるコマツクレーン教習センターで実地研修、さらに仙台市で学科試験を受け、大型特殊と移動式クレーン免許を取得、女性オペレーターとなった。
大型クレーン車の幅は2.6メートル、長さは12メートル。大型トラックより一回り大きい。道路を走る時の制限速度は50キロだが、怖いのは雪道。大型トラックなら10本から12本のタイヤが車両を支えるが、クレーン車は4本のタイヤしかない。しかも50トンのクレーン車の自重は37トンもある。大型ダンプの重さは10トン前後。それに砂利などを積んでも20トン前後。「4本のタイヤしかないうえに、トラックに比べてもはるかに重いため、坂道ではブレーキを掛けて止まっても自分の重さで滑っていく」と高橋さん。「その怖さがたまらないし、コントロールが大変」とも話す。
しかも建設現場では重量のある鉄骨や橋げた、コンクリート製品などをつり上げる。作業する現場の地盤は柔らかくないかなどを確認しなければならない。つり上げ作業中の事故は周りで働いている作業員を巻き込む重大な事故になりかねない。「とても楽しいなんて思う余裕もないし、気を抜けない」と高橋さん。それでも今は11人のオペレーターの中でベテランとして皆に尊敬され、伊藤興業の副総括責任者、安全衛生責任者の立場でもある。
高橋さんは高校1年の男の子と小学2年の男の子の母でもある。家を出る時はいつも作業服姿。「高1の男の子がまだ小さかったころは『母さん。普通のお母さんたちのようにスカートをはいて、化粧する仕事に就いて』と何度も言われた。今は何も言わなくなったけど」と高橋さん。
つり上げ荷重50トンの大型クレーン車のブームは伸ばすと39メートルも伸びる。さらに孫ブームを加えると高さ約53メートルまで建築資材をつり上げる能力がある。車にはコンピューターも内蔵され、作業状態が運転席の画面で分かるようにもなっている。しかし、常に危険の伴う作業であることに違いはない。社長の伊藤さんは「オペレーターが女性だとなると知らない現場の人たちは戸惑ったり、不安がったりしたが、高橋さんの仕事はていねいだし、今ではとても喜ばれている」と全幅の信頼を寄せている。
取材を通して大型クレーン車の運転席に初めて乗ったが、その内部は意外と狭い。そしてハンドルのほかに様々なレバー、足元には7本ものペダル。さらに数々のメーター類。高橋さんから一通りの説明を受けたが、ただ黙って目を移動させうなずくしかなかった。