南外村の出羽鶴酒造
寒さを迎え酒造りもスタート(11月19日・水)
朝霜が降りる季節となった。この初冬の冷え込みを待って、今年も酒造りが始まった。南外村字悪戸野の「出羽鶴酒造株式会社(伊藤辰郎社長)」では19日朝、新酒の「初しぼり」が行われた。同時に新しい酒ができ上がったのを知らせる「杉玉(酒林)」を玄関先につり下げ、シーズン到来を告げた。絞り場で槽(ふね)と呼ばれる容器からチョロチョロと流れ出した酒を茶わんで受け止め、味見した技師長の佐渡高智さん(41)は「冷夏だった今年はコメが悪く、味がだれるのを心配したが意外とシャキッとし、切れ味がある」とホッとした顔を見せた。絞りたての酒は純米生酒「出羽鶴」の「新米初絞り」として25日から、同社の販売ルートに乗って全国販売される。そして蔵ではこれから来年3月20日ごろまで次々と酒が仕込まれる。
今年の酒米として使ったのは「吟の精」と「たかねみのり」。地元の農家から先月15日に3000キロを仕入れた。同時に杜氏をはじめ頭(かしら)や麹(こうじ)師、もと師(酒母)、精米師、蒸し番、槽場(ふなば)などと呼ばれる蔵人12人が蔵入りし、酒の仕込みに向けての精米作業が始まった。
そして22日にはコメ研ぎに入ったが、冷夏の影響を受けてかコメの質が全体的に例年より劣り、胴割れという障害が発生。コメが割れると酒の母胎となる「もろみ(醪)」になってから溶けやすく、発酵がうまくいかないことから「今年は水分調整をするなど酒造りは初っぱなから難儀した」と佐渡さん。コメ研ぎを終えてからは、蒸し作業、こうじ揉み、酒母造りなどの作業を経て30日まで仕込みを終え、容量5000リットルの巨大なタンクでこの日までの20日間、じっくりと発酵させ「醪(もろみ)」を誕生させた。
このタンクでの発酵が始まると杜氏の佐藤賢孔さん(53)=同村及位=らの活躍が始まる。発酵が始まると温度も上がりだし、簡単に酒になってしまう。仕込んだ時8度だった液体が発酵で20度まで上がるという。このためタンクの底に付いた冷却機で15度ぐらいまで温度を下げ、アルコールを発生させる酵母にストレスを与えた。「酵母に冷や汗をかかせるのです」と佐渡さん。この冷や汗をかき、仕込まれることで日本酒独特の味の深みや甘さが生まれると話す。発酵が始まってからは杜氏の佐藤さんはほとんど蔵に泊り込んで、タンクの温度を見守った。
タンクの中のもろみはこうじの粒が混じって乳白色に濁っているが、これを布製の酒袋に詰め、絞り出すと原酒が生まれる。巨大なタンクからパイプラインでもろみが運ばれ、2人の蔵人の手で次々と酒袋に詰め込まれる。槽と呼ばれる容器の底にその袋が横積みされる。2層3層と重なるとその重みで槽の下の細い管から酒が流れ出す。
静まり返った絞り場にチョロチョロと流れ出す酒の静かな音はどこか神秘的。甘い香がぷーんと流れる。技師長の佐渡さん、杜氏の佐藤さんらが茶わんで受け止め味見する。絞りたてだけにまだうっすらと濁っている。胴割れという障害に「味がだれないか」と心配した佐渡さんも「ウーン。まだ荒っぽいが、味はシャキッとしている」と目を細めた。一番絞りの味見こそ、その年の酒造りを占うだけに緊張するという。
初しぼりの味に満足した杜氏の佐藤さんは「新酒」誕生を知らせる杉玉を換えるため、ハシゴを上った。玄関先に杉玉をつり下げるためだ。バスケットボールほどの大きさに丸く仕上げた杉玉。杉の葉は昔は酒を入れる桶(おけ)の漏れをふさぐためにも使われ、杉は酒の神さまにとって神聖なものだったという。こうしたことから杉の葉で新しい酒が生まれたのを告げるようになったとか。新しい杉玉がつり下げられたことで雪で冷やされ、雪に育てられる酒造りが本格化する。米の胴割れという障害にぶつかった佐渡さんは青々とした「杉玉」を見上げながら「今年の酒造りは難儀しそうだ」と杜氏の佐藤さんと「お互い技術でカバーし合おう」と誓い合っていた。
初絞りは720ミリリットルで1000円。300ミリリットルで430円。1.8リットルで2200円。生酒のため冷やが一番。正月の祝い酒として人気があるという。