三つどもえの激戦、僅差で抜け出す
「コツコツと続けてきた政治活動を市民は評価してくれた」と栗林氏(10月5日・日=午後11時20分)
大曲市民は僅差ながらも市政の改革を望んだ─。任期満了(10月20日)に伴う大曲市長選は新人3人による28年ぶりの三つどもえの激戦となり、5日午前7時から午後8時まで市内37投票所で投票が行われ、午後8時45分から市民体育館で即日開票された結果、元県議の栗林次美氏(55)=栄町・無所属=が、元助役で自民党大曲支部推薦の高野昭次氏(54)=中通町・同=、会社役員・石塚柏氏(56)=泉町・同=の両新人を破って初当選した。栗林氏の得票は9509票、高野氏は9348票、その差はわずかに161票だった。石塚氏は6160票だった。三つどもえの選挙戦は混戦となり、最後まで予断の許されない戦いとなった。この日の投票者数は2万5161票で、投票率は79.35%だった。無効は144票だった。栗林氏の当確が決まったのは午後10時10分だった。
栗林氏は今度の市長選で無投票がほぼ確実で安全パイとも言えた県議選を見送って、市長選へと出馬した。あえて〃火中の栗〃を拾いに出た理由を栗林氏は「停滞した市政を市民のために建て直してもらいたいと出馬を願う声を無視できなかった」と訴えた。そして「高橋司市長の市政は立派だった。しかし、4期16年もの長期市政が続いたため都市計画も、子育て環境も、農業、農村環境などいろいろな課題も進まなくなり、横手市にも遅れてしまったと言われるようになった。市役所の人たちがもっと現場に入って汗を流し、まちづくりや福祉、農業問題などさまざまな課題に向かって懸命に仕事をしなければならない。本当に住民に役立つ市役所にしたい」と街頭で訴えた。運動は名前の連呼だけでなく、一日平均10カ所以上でマイクを握っての遊説だった。支持基盤が弱く、市民の出足が悪いところでは逆にマイクを握る回数を増やし、聞き手を呼び集める作戦も取って浸透を図った。
寺田典城県知事後援会も後押しし、連合秋田大曲支部の労組員も組織的に支援した。加えて教職員仲間も好意的に受け入れ、栗林氏の名前は全市的に浸透した。しかし、終始、栗林氏有利の見方が流れ、陣営は上滑りを警戒する苦しい戦いを余儀なくされた。最終日の4日は市街地の住宅街などを中心に運動を展開。栗林氏は選挙カーが移動するたびにマイクを握って市政改革を訴え、「高齢化社会になってもいいじゃないですか。福祉の充実した安心できる健康長寿社会を目指そう」などと精力的に呼びかけた。支持者の多い四ツ屋から花館地区では住民が沿道に軒並み顔を出すなど熱烈な歓迎となった。
夕方の午後5時には駅前から栄町までの商店街を歩いて遊説。要所要所でマイクを握っては「住民本意の市政、住民の立場に立った行政をみんなで創ろう」と訴え、市民の共感を呼んだ。同行した渡部英治県議は「栗林さんの総決起集会には寺田知事も応援に来た。知事が来てくれたという重みを考えてみて下さい」と県政との太いパイプを持つ栗林氏こそ市長に選ぶべきだと訴えた。
「これまで長い間、市出身の人がトップに立った大曲市だった。そろそろ市役所は外から出た人で変えてもらいたい」。市民の間にはそうした潜在的な流れの変化を望み、市政への不満がくすぶっていた。このため推薦団体は30そこらの脆弱(ぜいじゃく)な基盤でありながらも、市民には6年前の知事選で県政を外から変えたいと出馬し、寺田知事が誕生した戦いとダブった。
それが石塚氏の唱える「民間の柔軟な発想、民間のスピードとサービス精神で」との訴えと相乗効果となって政治家として25年、県議11年の実績を持つ栗林氏に〃追い風〃にもなった。厳しい結果ながらも、何とか逃げきった勝利だった。
一方の高野氏は定数24議席の市議会のうち15人が支持し、JA秋田おばこ農政連など100を超える企業・団体の推薦を受け、必勝態勢を敷いて今度の市長選に臨んだ。市民には「30年の行政経験という実績があるからこそ市政も安定し、希望と活力のある新しいまちをつくれる」と訴えた。市町村合併も「助役時代から携わった問題。近隣の町村長とも信頼関係がある」とスムーズな合併推進を主張したが、市役所を外部から改革してもらいたいと望んだ市民の声に惜しくも敗れた。
今度で2度目の市長選への挑戦となった石塚氏。知名度も人気もあった。4年前の市長選で培った人脈を育み、「当選したら在任期間中の1年半で200人の雇用を創る」など斬新なアイディアと政策で訴えた。その「言葉」による説得力と高橋市長と一騎討ちを演じて得た1万余票のエネルギーで再燃を図ったが、栗林陣営のような労組の組織も、また高野氏のように自民党を背景とした支援もなく、孤独な運動の展開で終わってしまった。しかし、その運動と訴えは今回も清新な風となって強い印象を残した。
混戦からやっと抜け出し、栗林氏が当確の報が栄町の事務所に入ったのは午後10時10分を過ぎていた。事務所内は300人を超す支持者や祝い客でいっぱいだった。栗林氏は奥まった所でぼう然とした表情で何とか勝利を噛みしめようとしていた。妻の彰子さん(48)は感動と嬉しさに泣き顔だった。
栗林氏の後援会組織の会長である小林誠一さんがマイクの前に立って「この勝利は一致団結したみんなの勝利であり、市民の判断が正常だった」と勝利宣言をすると周囲からは「そうだ!」と同調の声が沸いた。そして栗林氏はマイクの前に立って「皆さんに本当にご難儀かけてありがとうございました」とお礼を述べ、「なぜか今、自分の気持ちは冷めて頭の中は座談会や街頭演説で市民の皆さまに約束した公約をどうしっかりとやっていくかでいっぱいで大きな責任を感じている」と訴えた。そして「もっと前向きにものごとを進めたい。自分の力は限られているので、みんなの力を貸して下さい。市町村合併もきちんとまとめあげるのも大事な仕事だ。明日から気持ちを整理し、市長という大任に耐えられるよう頑張りたい」と抱負を語った。勝因を聞かれると「政治家として25年、県議として11年間、コツコツとやってきた評価が信頼された結果だと思う」と控えめな感想を述べた。
祝賀会には高橋司市長、そして友人の小松隆明西仙北町長、仙北町、中仙町、仙南村の町村長らの姿もあった。市幹部職員もお祝いに駆けつけた。高橋市長は「大曲市だけでなく合併する新しい市全体を考えた行政を期待する」と栗林さんの当選を祝った。
開票結果
栗林次美氏=9509票
高野昭次氏=9348票
石塚 柏氏=6160票
当日の有権者数3万1709人(男1万4749人、女1万6960人)。投票者数2万5161人(投票率79.35%)。無効票144票。
栗林次美氏=1948年2月25日生まれ。横手高校を経て1970年3月、上智大学経済学部卒。出版社ダイヤモンドタイムに入社。月刊誌「プレジデント」の編集・単行本の企画・宣伝を担当。76年から父・栗林三郎氏(故人)、細谷昭雄元代議士の国会秘書。83年4月、県議選に初出馬し、次点。87年4月の県議選で初当選。90年2月と92年7月の衆院選に挑戦したが落選。95年4月、県議に復帰。03年4月、任期満了で県議勇退。