子供の自立を考える集い

登校拒否文化医療研究所

高橋良臣所長の講演テキストから(9月27日・火)

  大仙市大曲のボランティアグループ「フリースペーストウービー」では24日、大曲花園町の中央児童館で子どもの自立を考える集いを開いた。講師は登校拒否文化医療研究所の高橋良臣所長の予定だったが、都合によって欠席したため、参加者は高橋所長から送られたテキストを読み合っての研修会となった。テキストの内容は次の通り。

  ◇不登校・引きこもり理解と対応と予防

  不登校・引きこもりは日本にはかなり古くからあった。神話にも登場するほどだ。外国の場合でも、恥や外聞を強く気にする文化圏には必ずある。これは親が悪いとか子が悪いとか教師が悪いというものではない。また、家庭とか学校とか社会が悪いというものでもない。今日まで、そんなに理想的な社会や学校や家庭は存在したためしはない。そんなに正しいだけの立派な人間がいたためしもない。国際的な精神医学の診断基準では、不登校や引きこもりに隣接する対人恐怖について言えば、日本文化に特有のものであるとさえ言われている。
  感受性をもってかかわっている人間と、その人の周囲の環境や対人関係とが織りなす現象の一つが、不登校・引きこもりだ。

  不登校は学齢期にある子供を対象に付けられた、現象名だ。あるいは症候群的な名称でもある。親からは離れられないレベルと、不安から緊張し過ぎるレベルと、いじめなどに遭い、葛藤し、苦悩しているレベルと、対人関係でつまずいているレベルなどがある。

  引きこもりは不登校の子供にもあるが、学齢期を過ぎてほとんど外出しなくて、外部との接触がない人々の現象や総称だ。

  外出に関しては夜間に家の近くの自動販売機までは行ける程度と、必要最低限の外出しかしない程度と、まったく外出せず自宅に居続けるレベルなどがある。

  対人関係で言えば、家族とも顔を合わせないようにしているレベルと、家族のうちの特定の者だけとしか顔を合わせないレベルと、ごく少数の信頼関係がある者とだけは、年に数回顔合わせができるレベルなどが区別される。精神医学レベルの問題を含む人もいれば単なる相互の関係性や自己の周辺の環境レベルでの課題を、未解決のままに抱えている人もいる。社会的な生活に関して、営みができないというレベルの人もいる。

  1.成立

  a.親から受ける影響、遺伝的な4因子…新奇性追求、損害回避、報酬依存性、固執。

  b.後の環境や関係から受ける3因子…自己志(指)向性、協調性、自己超越(対人関係療法家のクロニンジャーの理論)

  c.生育歴の特徴…(1)父親・役割、母親・役割、本人の3者関係の欠如…サリヴァンの理論。(2)父母のどちらか、あるいは両者がその時代の価値観から掛け離れた価値観を持って子供とかかわってきた…ブランケンブルク。(3)親のどちらかか両者が子供に対して強圧的である…ウィニコット、ハーマン。(4)子供の欠点は指摘するが、良いところを誉めたことがない…コフート。(5)子供が親を恐れている…エリクソン。

  d.安定した関係や環境がない…(1)転勤、他人・家族も含む・の出入りが多い家庭など…カーター。(2)親がひんぱんに病気したり、家を空ける。(3)養育者が恒常的ではない…ボウルビー。(4)本人に強いストレスを与える環境がある…V・D・ベルク。(5)本人の対人関係について、本人の意思を無視して介入する…ウィニコット。(6)家族間には、同世代文化に対する批判的な環境が強くある…ベイトソン。

  e.その結果、次のような事が起こる。

  (1)周囲の人々に対する違和感(ペースが合わない)。(2)気になることができる。(3)身体反応が起こる(不安、緊張、萎縮、硬化)。(4)孤立する。(5)不眠傾向になる。(6)不鮮明な自己(過去の表現でいえば、弱い自我。高橋流の表現だと、心の構成の断片化)に陥る=自分自身のことが良く分からない=やりたいことが分からないなど。

  f.社会的な背景の影響もある。(1)人間の自然な生理活動に反する機械化。(2)軽視される精神文化。(3)心を閉ざさなければならない閉鎖的な環境がある。(4)経済最優先の歪みにより、対人関係の停滞。(5)競争原理主義から受ける圧迫。(6)地域社会での家庭の孤立化。(7)家族構成員の孤立化。(8)社会的自明性の欠如。

  g.人間的、個人的な背景として。(1)損害回避傾向の強化。(2)個人的なこだわりの強化。(3)他者への無関心。(4)薄い対人関係の常在化。(5)ペースやリズムの差異の拡大。(6)失われていく共同性。

  h.文化とか表現形式の背景。(1)IT機器の介在による対面対話の欠如。(2)マンガ・アニメの流行による現実感覚獲得の危機。(3)非現実的なより過激な表現への進行と強いストレス。(4)自己体験により形成される理想ではなく、与えられた情報の非現実感へ。(5)大きく変質した性文化のストレス…隠す性から見せる性へ。

  2.目立つ現象…ほとんどの人が以下のような現象を示す。

  昼夜逆転生活。学習性無気力状態。機械的器具的な単純反復遊び。時間の区切りがない生活。対人回避。現実検討回避。全体的な怠慢。おっくうな態度。不規則な食事、偏食。強いこだわり。恐怖。警戒心。用心深さ。臆病さ。過敏な神経。現実感の欠如。

  a.人間の生理的な機能の停滞や低下…無視されている健康自己管理、心身の自立性の無視。ずさんな食生活、無視されている人間の生理的な一面。知識偏重か運動偏重かの心身のバランスの悪さ。継続される不規則生活による慢性疲労、低代謝。

  b.人間の心理的な機能の混乱。恒常的な対象関係欠如により起こる断片化しやすい心の構造。体験しても経験として心に構成されない、漂う体験。まとまりがつかない心。欲望の弱さと、修復しにくい心の構造。

  c.相手への違和感の世界。激しく変化するその場限りの不規則な共同性は自明性。心の防衛のために閉塞される自己や、やむを得ず行使される宇不意優しさ。自己内部で強化される異物、違和感の排除。受容性の低さ。不適応範囲の拡大。

  3.家族関係…不登校・引きこもりになると以下のような現象が起こりやすくなる。

  母親への依存、否定的・拒否的依存。父親回避や嫌悪。家庭内暴力。対面拒否。言語表出欠落。家族とも合わせない生活のペース。母親への衝動的、支配的な欲求による言動。コミュニケーション不足傾向。課題やストレスが多過ぎる家族。

  a.社会とつながらない家族システム。地域での孤立家族。余りにも硬化し、柔軟性がない家族システム。恥意識が強い家族。サブシステムを活用できない家族。

  b.子育て環境が整わない家族。母親だけが頑張る家族。周囲の助言や手助けなしの家族。周囲に見習う対象がなあい家族。虐待者を抱えた家族。依存症者を内包する家族。

  c.くつろげない家庭。緊張を強いられる家庭環境。癒し欠如の家族関係。相互の対話ができない家族。家庭内部の問題を無視する家族。一人で頑張る家族の一員。

  4.その他の気になる部分…病気ではないか?、異常ではないか?、と思われる事が起こる。

  散乱する室内。入浴の頻度低下。着替え頻度低下。強い物欲、所有欲。不安定な睡眠。言動の低年齢化、退行。気分の乱高下。不鮮明な記憶が多くなる・解離…現実を記憶していない。関係や環境に大きく支配される言動。不規則な日常性。以下のような性質気質。

  a.強い損害回避感情。弱い新奇性追求。強い固執。強過ぎる報酬性依存・気になる周囲。…消極的で回避的でこだわりが強くプライドも強い(高いとは趣が異なる)。

  b.弱い自己志向性。弱い協調性。歪められる自己超越。ファンタジーの世界による現実の世界の駆逐。全能感(万能感)の超人的な意識。やりたいことがない。

  c.弱い欲望。抑圧されてきた?自己抑制してきた?欲望を表出できない環境。

  5.不登校が意味する所・引きこもり…今後の課題として

  a.家族関係の硬直化への警鐘。人間性よりは経済優先家族への警鐘。父親不在、父親役割の偏りによる弊害。融通し合う父母の役割分担への希望。

  b.子供の不適応の拡大の危機。思春期における心身のバランスが悪い性成長。環境や関係の変化にもろい(弱い)心身による警鐘。現実感の獲得の不備。

  c.学校運営の硬直化への警鐘。教育方針や理念の柔軟性を欠いた教育。教師の人柄の課題。同性で同世代の対人関係獲得のための教育欠如。

  d.偏った経済、精神的、社会的な(序列など)価値観への警鐘。社会的な自明性や共同性が不鮮明になり何を基盤、基準にして生活したら良いのかの混乱。社会性がある個性の範囲と、異常の分別の境界が不鮮明で混乱。本来必要な内発動機と内容の評価が希薄。必要以上に強い(不必要な)外発動機と他者との比較、序列化。

  6.不登校・引きこもりの子供、人へのかかわり

  a.その子(以下、人も含む)どもが好む人がかかわる。尊敬できる人、信頼できる人がかかわる。そのためには信頼関係を獲得の努力が周囲の者には必要。

  b.その子供の心が快くなるようにかかわる。直接的な問題解決を本人ができるように援助する(かかわる者が問題を直そうとするのではない)。

  c.子供のペースに合わせてかかわる。本当の優しさ関係ができると心身の反応を押さえ、満足感が獲得できる…そのようにかかわる。

  d.心がどの程度混乱しているかにより(心の構成の断片化の程度により)、かかわりの質を変える。かかわりの方法は通り一遍ではない。

  e.子供の心身の成長のバランスを考える。一人ひとりバランスは異なる。

  f.かかわる人は自分の「持ち味」でかかわり、行き詰まったら心理技法を活用。

  g.目の前にいる子供の心に合わせたりかかわりが必要。常識は捨てる。

  7.基礎的な連携

  a.家族、学校、地域、社会の連携。どちらも敵に回すな。どちらも味方につける。

  b.親しい子供との連携。強引にやるな。時間をかける。子供のペースに添う。

  c.親たちはかかわりで困難を感じたら専門機関のアドバイスを受ける。スーパービジョン。ケースワークは必要である。信頼できる社会的な資源を獲得しておく。

  d.かかわる者が行き詰まっていたら心理学の基本は学ぶ必要がある。

  e.できれば家族が家族会などの社会的な集団に所属して学ぶ。

  8.思春期の基礎的生理学の必要性。大脳生理。神経生理。性成長の生理。

  人間の記憶や知識の多くは大脳新皮質が司令塔。行動や感情や情緒などは大脳辺縁系や視床下部。脳の中心生命(各分野の連絡機関)としての脳幹。脳内の連絡は神経伝達物質のドーパミン(興奮作用)やセレトニン(抑制作用)。衝動が強い子供やADHDはセレトニン低下の可能性。セレトニンは男子は女子の半分程度の分泌。視床下部の障害は性的な歪みに関連する。思春期の性ホルモン、テストステロンは興奮衝動作用強い。低セレトニンは高インシュリン状態を引き起し、即座に低血糖状態を引き起こす。衝動や倦怠感。強いストレスにさらされ続けると海馬(辺縁系に属す=情動、雰囲気、記憶などの装置)は萎縮し、さらに強まると死に至る(ただし、受動性が強い人の場合には、相手が命じるままに動くのでストレスにはなりにくい。しかし、人間には積極性が求められる)。

  9.不登校・引きこもりを起こさないために

  a.周囲の者は快い言語表現を豊かに。子供の言動や表情に注目。無口や平板化や緊張や孤立などの発見。消極性が圧迫から起こっているかどうか。

  b.学校や家庭や地域との情報交換。子供の様子を聞く、良く観る。

  c.安定した環境づくり、関係づくりに努力する。安全と揺るがない信頼関係の構成。

  d.子供同士の対人関係づくり。学校も家庭も地域社会も対人関係づくりに向けてのプログラムを連携して持つ必要性がある。教科の学習ばかりが学校の役割ではない。同性で同世代の子供が多数いる所は学校。そこでの対人関係づくりは重要。

  10.最近の傾向に関する注意点

  それまではこれといって問題を起こしたことがない人や子供が、引きこもったり不登校になる傾向がある。彼らに共通する幾つかの点に触れる。不登校・引きこもりの人々の場合にもこの傾向があるが、犯罪に結び付くようなケースは少ない。強引に社会参加させる家族がいた場合には、悲劇が起こる場合もある。

  これまで述べてきたことをまとめる意味で、以下に気になる共通点を挙げる。

  a.現実感の欠乏。…自己の体験から獲得した理想ではなく、ゲームやIT機器の介在で獲得したファンタジー世界の獲得。そのファンタジー世界が、本人の生活の大部分で現実の世界を覆い尽くしていて、現実感が乏しい。

  b.幼稚で幼い理想が強く、それを純粋さであるとして堅持する傾向がある。純粋さであるとして堅持する背景には強い(高い?)プライドがあり、自己を超越した万能感(全能感)がある。手段を選ばず強引に自己の希望や願いを強行することがある。

  c.他者との関係性に相互性が欠乏する傾向がある。相手の苦悩や痛みや、その場での喜怒哀楽の共感ができない。強過ぎる自己愛がある。

  d.日常的に物静かで目立たないが、ある出来事を発端にキレる(自己愛憤怒)。日常的にはストレスの発散ができない。

  e.傷つきやすく、怒りから、恨みに結びつける。復讐の実行(誓い)をする。相手に思い知らせたい。相手をギャフンと言わせたい。

  f.考える時間(力)が多く(強く・長く)、感じる力は希薄(今ここでが、ない)。

 登校拒否文化医学研究所のホームページは下記から。

 http://www.asahi-net.or.jp/~pr8y-tkhs/index.htm