横断中の事故をリアルに体験
大仙市のエーピーアイ社が秋大と共同開発(8月3日・木)
大仙市協和船岡のエーピーアイ株式会社は秋田大学と共同研究で、高齢者の事故防止のための「歩行環境シミュレーター」を開発した。大型のスクリーンに左右から走ってくる乗用車やバス、大型トラックが映し出され、歩行者がそのタイミングを見計らって安全に横断できるかどうかの身体能力を測定する装置。このほど同社を訪れ、シミュレーターで実体験した栗林次美市長も横断のタイミングに失敗すると実際に事故に遭ったようなリアルさに驚き、今年10月に予定されている「秋の実りフェア」に「ぜひ展示し、市民に体験させてもらいたい」と要望、同社も快く応じた。
同社は秋田県と旧協和町の誘致企業として1983年に創立。東芝向けのカラーテレビ用偏向ヨークを一貫生産する製造拠点として創業を開始した。しかし、激しい価格競争のあおりを受けて急速な海外展開が進み、国内での同製品の製造は撤退を余儀なくされた。大きな柱を失った同社は新たな事業を模索しようと秋田大学工学資源学部へ足を運び、技術面での情報交換を進めていた。
そして05年4月、吉村昇教授と水戸部一孝講師から、当時まだ研究段階だったシミュレーターの製品化に向けた共同研究の声が同社に掛かり、県の産学官技術開発実用化事業の補助を受け、開発を進めてきた。
シミュレーターは幅160センチ、高さ238センチのスクリーン3面と3台の液晶プロジェクター、それにパソコンと歩行用ルームランナーの組み合わせ。1画面80インチの映像が、プロジェクターから映し出されると横断歩道や街並みが目の前に広がり、道路の左右から大型トラックや大型バス、乗用車が次々と走ってくる。
体験者はその画面の前に置かれた歩行用ルームランナーに上がって歩き出すと道路を横断しているバーチャル(仮想的)体験に陥る。渡るタイミングを誤ると、実際に事故に遭ったようなヒヤリとした体験もする。そして頭に付けたセンサーが横断前の左右の確認の仕方や横断のタイミング、歩行速度などを「モーションキャプチャー」と呼ぶ技術で正確に計測し、安全度を判定する。
画面は日中や夕方、夜間のシーンや道路の車線数、行き交う車の台数や速度などが自由に設定できるのも大きな特徴。また、歩行用ルームランナーには木の手すりも取り付け、お年寄りが手押し車を押して歩くようなイメージとした。秋田県警も事故の起きやすい状況のデータを提供するなど協力した。
運転者向けのシミュレーターは既に開発され、自動車学校などには置かれている。しかし、歩行者用はまだなく、現在指導の現場で使用されている機器は、使い勝手が悪いと不評だった。今回、開発されたシミュレーターはその点でリアルな体験もでき、自分の能力を自覚することができる。しかも、スクリーンは折り畳み式で、1ボックスカー1台でどこへでも搬送可能なコンパクト設計だ。
高齢者は自分だけは大丈夫だという過信や狭くなった視野で、左右から走ってくる車を見逃すことから事故に遭う例が多い。秋田大学で数名の方を対象に視野を調べた結果、20代の男性は170度もあったのに対し、80代の女性の中にはわずか120度の人もいた。
同社を訪れ、シミュレーターで横断実験をした栗林市長も何度か事故に遭う体験をし、「これはお年寄りだけでなく子供たちの事故防止のためにも体験させたい」と秋の実りフェアでの公開展示を要望した。
同社では今後も改善を加え、全国の警察や自治体が実施する交通安全の啓発向けに発売したいとしている。価格は800万円以下の予定。