「狼が遺したもの」

鹿角市の工藤さん出版

忘れ去られた狼と民俗を詳細に記録(12月9日・土)

  鹿角市花輪の工藤利栄さん(64)が「狼が遺(のこ)したもの─北東北の民俗を中心に─」と題した本を出版した。工藤さんは02年3月に鹿角市役所産業振興部長を定年退職。鹿角市の芦名沢に生れ育ったものとして市史に記述されている「狼倉」に「おいのくら」とフリガナがあるのに興味をそそられ、「オイノ」は子どものころに見た「オエノまつり」に関連があるのではないかと調査に取りかかってまとめたのが今回の「狼が遺したもの」だった。

  北東北でも狼に食い殺された人々の記録が残されているが、当時の民衆は「オイノまつり」や「オイヌポイ」を行って、狼の害がないよう神に祈るしかなかった。

  土葬の時代、墓をあばき死体を食い荒らす狼から、墓を守るのは生きている人々の重要な役目で、墓の土盛りの上に「狼除けの仕掛け」を作って守ったこともほとんどの人が知らない時代になった。

  しかし、藩政時代の狼狩に関する記録は多く、秋田市出身で仙北市角館町に住み、郷土史研究に携わった武藤鉄城氏(明治29年〜昭和31年)が書き残した佐竹北家の「狼狩記録」は貴重だが、武藤氏が仙北地方の各地に伝わる伝承をまとめた「狼伝承」なども完全に忘れ去られようとしている。

  一方、田畑を荒らす鹿やイノシシを食い殺してくれる狼は、神のようにあがめられた。また、群れで統率のとれた狩をする狼は海外でも畏敬の対象となった。

  埼玉県秩父市の三峯神社は、狼信仰の総本山的な存在で、三峯さまの信仰は北東北でも広く行われ、秋田県の仙北や河辺郡にも「三峯さま」の祠(ほこら)が建てられている。

  日本でも、海外でも狼に関する地名や言語、ことわざ、神話などが多く残され、「狼煙(のろし)」や「送り狼」という言葉やことわざにもなっている。また、狼の死体の肉や骨、毛皮などは薬やまじない、狩の技術向上の祈りなどにも用いられた。

  こうした狼への畏敬の念は「蒼き狼」と言われたチンギス・ハーンの出自伝説にまで関連づけられ、ローマを建国したロミュロスも狼と深いつながりがある。このように人間社会に多くのものをの遺した狼だが、今や日本では狼がいたことさえ信じないほどで「三峯さま」に祈ったことなども忘れ去られようとしている。

  工藤さんは何とかこうした事実を後世に伝えたいと各地を訪れては取材し、3年がかりで書き進めた。歴史とクロスさせた部分は歴史研究家として著名な弘前市の田澤正氏、盛岡市の工藤利悦氏、鹿角市の安村二郎氏らからも目を通してもらい、誤記のないよう留意したという。

  さらに許認可の煩雑な手間を惜しまず国内に3体しか遺されてない「ニホンオオカミ」のカラー写真も掲載、表紙には狼信仰の総本山的な存在である「三峯神社」の絵馬の使用許可も得た。同時に北東北の三峯信仰の石碑や祠の写真、弘前藩・盛岡藩などの古文書の紹介にも配慮した。

  出版社は弘前市富田町52、「北方新社」。電話は0172・36・2821。ファックスは0172・32・4251。出版社のホームページもあり、インターネットで購入できる。